2024年1月12日

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コミュニケーション・ラジオ第1回「選挙って、めんどくさいもの?」

コミュニケーション・ラジオ第1

選挙って、めんどくさいもの?

フロンテッジのコピーライターの青木美穂とストラテジックプランナーの鮎川幹が、世に溢れる広告・コミュニケーション 、コンテンツなどを眺めながら、自分たちを取り巻く「当たり前」について考えてみる社内向けラジオ番組「コミュニケーション・ラジオ」。第1回目は2022年5月に収録したラジオを再編してお届けします。

重い腰を上げさせるには? 「投票率の低さ」という課題

青木 ソリューションクリエイティブDiv.のコピーライターの青木です。

鮎川 プランナーの鮎川です。

青木 私たちは、気づかぬうちに偏りのある考え方を持ってしまったり、前時代的な考え方で意見していることも少なくありません。そこで、時代を写す鏡である広告コミュニケーションの事例を考察することで、ものの見方や表現における常識を問う時間をつくってみたいと思い、この「コミュニケーション・ラジオ」という番組をつくりました。
早速ですが、今回のテーマは「選挙って、めんどくさいもの?」です。

鮎川 青木さんは選挙行ってる?

青木 欠かさず行ってますよ! 行ってはいるものの、直前になって情報収集するのが毎度なんですが……。

鮎川 僕も同じです。いつも選挙日当日になってから各候補者の公約がまとめてあるサイトを見て、夕食前にパートナーと家の裏にある小学校に投票に行ってます。全然関係ないんだけど、学校に入ることってもうないからちょっと嬉しいんだよね。
そんなわけで、今回のテーマは選挙ですね。

青木 選挙というテーマにした理由は、ずばり「投票率の低さ」という大きな課題が長らくあるからです。この課題に悩んでいるのは日本だけではないこともあり、海外でもさまざまな施策が試されています。そのなかから、特に話題になった取り組みや事例を集めてみました。投票を促す広告やプロモーション事例を取り上げますが、選挙に限らず、人々の重い腰を上げさせたり、心を動かしたりするための視点も見えてくるかもしれません。

鮎川 そう考えると、ブランドの視点でも見ることができますね。企業における社会課題への姿勢が共感を生んでいることもあるので、単に選挙の話ではなく、ブランドの話としても受け取れると思います。

“投票所”の常識を覆すドイツの航空会社

鮎川 コロナ禍になり、政治が自分たちの命や暮らしに直結していると実感し、選挙に関心を持つ人は増えたんじゃないかな? だから、選挙について考えるのはいいタイミングだと思います。

青木 では、「選挙に行こう」と呼びかける企業の取り組みを見ていきましょうか。

鮎川 僕が面白いと思ったのは、ドイツの大手航空会社であるルフトハンザが実施した事例。投票率を上げるために“投票所”にある工夫をしたんだけど、なんだと思う?

青木 これ、私、知ってます。投票所を「普段はなかなか入れない“特別な場所”」にした事例ですよね。というか、鮎川さんにこの話を伝えたのって、私じゃないですか?(笑)

鮎川 すみません、そうだった(笑)。僕は人から聞いた話を自分が見つけてきたように話すタイプで……。これは、「投票所に行きたい」と思わせる素敵な事例だよね。
普段はなかなか入れない場所の一例として、ルフトハンザのフライトトレーニングセンターや『エルプフィルハーモニー』というコンサートホールのステージや、『クイズ$ミリオネア』のようなクイズ番組のスタジオがありました。しかも、行きたい場所は自分で選択できるようにしたんだとか。

青木 日本だと投票できる場所は集会場や学校が多い印象ですよね。しかも、指定されるのは家の最寄りです。だから、自分で投票場所を選べるというのは面白いアイデアだと思いました。

鮎川 実際に投票率も上がったんだって。あとはファストフード店の事例もいくつかあったよね。

青木 インドのマクドナルドが行った選挙啓発キャンペーンですね。鮎川さんはチーズバーガーを食べたいのに違うモノが出てきたらどうしますか?

鮎川 怒って、店員さんの胸ぐらを掴みます。

青木 (笑)。

鮎川 いや、冗談ですけどね。でも怒りますよね。

青川 これはその心理を巧みに使った事例なんです。インドでは総選挙が5年に1度行われ、有権者が9億人いるうち、2014年は2.8億人が不参加だったそうです。近年は若者の投票率の低さが問題になっていて。

鮎川 人の数……! スケールが大きいね。どうやって選挙に行かせようとしたの?

青木 これはインドのある街での、選挙日当日の施策です。マックに入ってきたお客さんは普段通りに注文してお会計を済ませますが、受け取り口で渡されたのは全然違うメニュー。店員を呼んで「頼んだ商品と違う」と訴えるものの、なぜか取り替えてくれません。さらに抗議すると、返ってきたのは「今日は私たちがあなたのために選びました」との答え。鮎川さん同様、訳が分からず怒り出すお客さんに、店員はこう言いました。

「選挙に行きましたか?」「投票していないのなら、あなたは選ぶ権利を失ったのです。まだ投票所は空いていますよ、どうぞ行ってください」

鮎川 なるほど。

青木 選挙に行っていない=選ぶ権利を放棄した人は、メニューを選ばなくてもいいでしょ? というものですね。選挙権があることが当たり前になりすぎていることに対して、改めて「選ぶ権利がほしい」と思わせる施策です。

鮎川 普通は怒ると思うけど、ファストフードという生活に密接したところで自分の持っている権利を考えさせるのは面白いよね。

青木 選挙のことを考えていないときに考えさせる場をつくるのはいいですよね。

鮎川 ファストフード店はこういう社会課題に対してよく施策を打ち出しているイメージがあるんだけど、なんでなんだろう?

青木 ファストフードは健康面でネガティブな印象を持たれがちなので、そのイメージを変えたい思いが根底にあるのかもしれないですね。

鮎川 なるほど、それはいい視点。ネガティブなイメージを払拭するために、社会的意義のあることに取り組むというのは面白い。

SNSで話題になった「タピオカ×選挙」の意外性

鮎川 海外の事例だけでなく、日本の事例も取り上げていきましょう。若者の投票率を上げるために、投票に行った人に“とある商品”を半額にしたお店がありました。どんなお店だと思いますか?

青木 これはSNSでも話題になったので、分かりました。当時、見た覚えがある方も多いと思います。

鮎川 正解は、タピオカ店です。TAPISTAというお店が、投票に行ったら割引になる「選挙割」を実施しました。タピオカドリンクのお店=若者が集まる場所だからこそ意味がある。あと、意外性ですね。タピオカというポップでかわいいものが、政治とくっつくところがうまい。

青木 ごまんとあるタピオカドリンクのお店のなかでPRとしてかなり知名度を上げた事例ですよね。あとは、選挙に対する企業の姿勢を見せたものだと、パタゴニアの事例もあります。

鮎川 パタゴニアは「VOTE THE ENVIRONMENT」というキャンペーンを世界中でやっているんだよね。環境問題を考え、私たちにできる積極的なアクションとして一票を投じる、ということを推奨している。

青木 はい。その考えのもと、日本で実施したのが、「VOTE OUR PLANET」です。

鮎川 「#私たちの地球のために投票しよう」というコンセプトのもと、店頭でステッカーを配って店員と政治の話をできるようにしたり、選挙の当日には従業員も投票に行くために店舗を休業したりしたんだよね。パタゴニアは、選挙の話を地球の未来の話に変換して、自分たちの土俵に上げる文脈づくりが上手だと感じました。

単に商品を売りたいだけではない! 企業の本気度

鮎川 他にも、従業員のために企業が行っている事例がいくつかありました。カナダ・バンクーバー発のスポーツウェアブランド「ルルレモン(LULULEMON)」は、選挙日当日は16時に店舗を閉じて投票できる時間を確保しているそうです。また、短縮された労働時間分の給与もカバーする。

青木 企業が従業員のことを考えているからこそできることですよね。従業員の視点では、こういう施策を実施してくれる企業だと分かるだけで好感度が上がりそうです。

鮎川 選挙に行くかどうかは個人の問題だけれど、企業として従業員を支援する体制があるのは魅力的ですよね。

青木 アイスメーカーのBen & Jerry’sも、強いメッセージを発信した例があります。2020年に日本からは撤退してしまったのですが……

鮎川 あ、そうなの?

青木 はい、昔は表参道とかに店舗があった記憶があるのですが、スーパーも含めて撤退してしまったみたいです。
そのBen & Jerry’sは、これまで「Black Lives Matter」運動や米国連邦議会議事堂占拠事件などを受けて声明を発表してきたのですが、過去にもアイスのフレイバーで自分たちの意思を表明することがありました。そのひとつが「Pecan Resist(ピーカン・レジスト)」。

ピーカン・レジストは、白と黒のファッジチャンク、ピーカンナッツ、クルミ、アーモンドを使ったチョコレートアイス。2018年のアメリカ中間選挙の1週間前に発売されたフレーバーで、「不正をlick(=なめる/解決する)し、より公平で平等な国の実現に向け闘う人たちを支援する運動」と説明されていました。味も容器も、多様性を推進するものになっています。企業の姿勢を表明すると同時に、政治に注目させる方法にもなっていると思いました。

鮎川 なるほど、でもアイスの会社がなぜ社会の課題を解決しようとするのかな。

青木 彼らがこういった行動をとるのは、単にアイスクリームを売りたいからではなく、人々を尊重したい価値観があるからだと述べていますね。一番よくないのはウケがよさそうなことを取り繕うことだとも。NGOとパートナーシップを結んでいるそうで、実体もちゃんとあるみたいですね。人はいろいろなことに関心をもつ生き物だから、信念にもとづいて、さまざまな社会問題について企業はメッセージを発信してもよいものだと思っている、とのこと。

鮎川 人々を尊重する価値観を大事にしている企業はあるけど、実際に行動に出るのがやっぱりすごいなぁ。素直に感心しました。
というわけで、今日はここでおしまいです。普段考えない選挙や政治の事例を集めてご紹介しました。投票を義務にして罰金を科す国もあるなか、日本は権利と捉えている。だからこそ、投票に行きたくなるには? という社会の課題に対して広告コミュニケーションが機能する余地がある気がします。

青木 そうですね。ブランドがその課題に応えてもいいわけですもんね。

鮎川 選挙に行くのも行かないのも個人の自由ですが、僕は今後も選挙に行きます。

青木 私も行きますよ!

最後までお聴きいただき、ありがとうございましたー! では、また次回お会いしましょう。

構成:原 航平/イラスト:蘭木流子

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