MOTIVATION NOTE
クリエイター

ランニング3.0 ~走ることから発想するモチベーション考~【後編】

第5章 ローカルからグローバルへ (自身の壁を取り払う)

ある時、高尾山のトレイルを気持ちよく走っていたら、地元ハイカーらしき年配男性から突然「走るなーっ!」と怒鳴りつけられました。走れるからと調子に乗っていた自分を、恥ずかしく思った経験があります。

山道でランナーがハイカーと遭遇した時は、歩行して通り過ぎるのがマナーです。弱い立場の人に気を配ること、山の中でもそれは100%正しいことです。ただその時は、安全を配慮してハイカーとは十分な距離をとっていたつもりだったので、なんとももやもやした感じが残り、狭い日本の山のちょっとした窮屈さを感じた出来事となってしまいました。

「広々とした海外の山々を走ったら、もっと自由で楽しいかも」

趣味だった海外旅行に、トレイルレースを盛り込んでみるイメージが頭に浮ぶ。そんな時に巡り合ったのが『ULTRA PIRINEU(ウルトラ・ピレネー)』というスペイン、カタルーニャ地方の山岳地帯で開催される110kmの大会。自分の走力に自信がついてきた時だったので、ドキドキしながらも勢いで参加ボタンを押してしまいました。2015年の新春の出来事でした。

「国内でも100km越えの経験がないのに、ひとり海外で本当に参戦できるのか」

丸一日以上、寝ずに走らなければいけないウルトラトレイルレースは入念な準備が必要です。一日中走り続けられるフィジカルはもちろん、地図やWEBなどでコースの下調べ、補給食やウエアなど完走のための計画づくり、言語のギャップを解消するための英会話力などなど。さらにはトレイルランニングの虎の穴『ハセツネ安全走行講習会』に半年ほど通い、ロープワーク、セルフレスキュー含め座学から実習まで、山を安全に走るためのイロハを身体に叩き込みました。そして参加申し込みから約8ヶ月後、満を持してスペインへ。

トレイルの大会は、一般的な観光客があまり訪れることのない、山奥の街を拠点に開催されることが多い。その土地の文化や自然が色濃く残る、刺激的なエリアに足を踏み入れることになります。

日の出前、ピレネーの山深い街の広場に設置されたスタートゲート。屈強な西洋人ランナーの群衆の中、遥々アジアの端っこからここに辿り着いた自分は、まるでレースの主人公気分です。

美しく、雄大でなにか哀愁漂うピレネーの自然と、世界トップレベルのトレイルレース参戦経験は言葉で語りつくせない素晴らしい思い出に。ゴール後感じたのは、自身の壁の向こう側には新しい風景が広がっていた、ということ。その後ベトナム、香港、台湾と、フランスと遠征を重ね、普通の旅行でも、出張でも必ずランニングシューズを携帯し、その土地をランニングするのが習慣になっていきました。

ウルトラ・ピレネーにて

『ランニング3.0』は、自分の足でなければ辿り着けない場所に導いてくれいる新しいツーリズムとも言えます。世界中を走って、山に登って、走ってカロリーを消費してるからなんの躊躇いもなくその土地のものを食べられる。旅行を満喫できる旅ランに夢中になっていきました。

第6章 走る仲間をつくる (苦楽はみんなで分かち合う)

ランニングは孤独なスポーツだと思っていましたが、始めてみると続けている人は、各々どこかのランニングクラブに所属しているケースが多いようです。ランナーたちが目標にしているマラソン完走は、練習含めて辛く長い道のり。こんな大変な経験も仲間で共有すれば、よい思い出に変換されてしまうのです。

僕が初めて加入したクラブは、東日本大震災直後、疎遠になってしまった被災地域である故郷に何でもいいから関わり続けたい、そんな想いで加入した『ふくしまトレイルランニングクラブ』。全国でも有数の規模と歴史を持つクラブです。最初は地元にお金を落とすさやかな支援程度で、2012年頃クラブが復興イベントとして開催した『福島のトレラン体験ツアー』に参加。それが縁となりクラブに入会することに。その後、イベントがある度に新幹線に乗り込み、東京からそんなに近くはない南東北の山々を何度となくメンバーと一緒に駆け巡りました。

クラブでは、トレイルランニングの技術的なイロハ、山でのマナー、そしてクラブ運営に到るまで様々なこと学ばせていただきましたが、一番の学びは「仲間と一緒に走ることの楽しさ」でした。利害に関係なく、走る活動をお互いに支え合うメンバーの清々しい姿に大きな刺激を受けました。

僕は居住地が東京なので、クラブのイベントに参加はできてもサポートが全くできてないことにもやもやしていたのですが、自分の職能を活かしてクラブTシャツをデザイン。嬉しいことに、完成から10年近く経った今でも大会の会場やSNSなどの投稿で、Tシャツを着て走るクラブメンバーの勇姿を見ることができます。価値を共有できる仲間を持つこと、そしてその活躍が何にも増して走る『モチベーション』を盛り立ててくれる、ということを実感しています。

ふくしまトレイルランニングクラブのクラブTシャツ

その後、その経験を活かし、マーケティングを学ぶ業界仲間でランニングクラブを発足させ、東京を拠点とした活動も始めました。練習会や大会参加など、さまざまなランニングイベントを企画・実施。今では129名ものメンバーを擁する大きな組織に発展し、国内のみならず、海外遠征までみんなで楽しく活動しています。

昨年2019年には、岩手の被災地域で地域振興を目的としたトレイルランニング大会を企画・実施し、過疎地域の関与人口の創生という社会課題の解決に向き合うこともできました。ランニングが結ぶ人と人との繋がり『ランニング3.0』。さまざまな活動を通じて、走る以外の多くの方々との繋がりも生まれています。

第7章 趣味を仕事に (価値を創造してみる)

ランニングを続けることで身体は健康になったし、なによりこの歳になって仕事関係以外の人との新しい繋がりができたのは、全く想定外の出来事。そんなこともあり「ランニングの楽しさをもっと伝えていきたい!」という想いが以前にも増して膨らんでいきました。

「ランニングがもっとカッコ良く映えれば、愛好家の裾野が広がるはず」

その世界にどっぷりのめり込んでいくと、良いところはもちろん、悪いところも見えてくるものです。例えばマラソン大会。僕が初めてホノルルで体験した海外のマラソン大会に比べて、そのころの日本のマラソン大会は、ごく一部のトップイベントを除いて地域の体育祭的ノリから抜け切れてない、なんとも残念な感じでした。

「多くのランナーが目標にしているマラソン大会がこんなもので良いのか」

とはいえ、行政を巻き込んで数万人規模で実施される大イベントに対して、個人の力だけで全て解決できるはずもなく。そこでフォーカスしてみたのが、大会参加記念品の定番である完走Tシャツ。無感動なデザインから、意味不明なデザインまで、ほぼ例外なくかっこ悪い。これを素敵なデザインに変えるたけでも大会をアップグレードできる、大会参加のモチベーションを上げられるのでは、と考えました。地方の寂れた大会が著名デザイナーのTシャツによって申し込みが殺到した例が実際にあるのです。

「大会に参加した人が『大切なモノ』だと思う要素を、記念品で表現してみては」

マラソン体験で大切なもの、いろいろとあると思いますがそのなかでも重要と思われるものが『完走タイム』。ランナーたちの努力が結実したひとつのシンボルです。そんな掛け替えのないものが大会固有のコースと共にプリントされれば、それは参加者にとって大変貴重なものとなり、ナラティブなツールとして機能し、延いては大会のブランディングに貢献できるのでは。もちろん、そんなものは世の中には存在していないし、ないなら自分で作ってみようと製造の仕組みを考え、新規事業として会社に提案。そうやって2015年にRunGraphアプリは生まれました。

パフォーマンス向上の目的に作られた他のランニングアプリと違って、RunGraphはランニングデータをビジュアル化し、アートで楽しみを人に伝えることを目的に設計されています。今やINSTAGRAMなど、ビジュアルで自己表現する時代。ランニングアートをSNSに投稿したり、Tシャツに印刷できるシステムをスマホアプリで構築。2020年6月までの5年間で約28万台のスマホにダウンロードされました。

RunGraph Tシャツ

このシステムは全日本大学駅伝大会や横浜マラソン大会などに採用されたり、テレビ番組ではアイドルたちがRunGraphを使って街にランニングアートを描いてTシャツを作ったりなど。さまざまなランニングシーンで活躍していくこととなりました。

新しい価値を創造する『ランニング3.0』。陸上界のレジェンド千葉真子さんのラジオ番組に、開発者として出演する夢までも叶えてくれました。

エピローグ

好きで始めたわけでもないランニングを、楽しく続けられるようにするため、あれこれ工夫を続けて12年。単調なものだからこそいろんな掛け合わせを実践、そこから生まれる新しい価値創造『ランニング3.0』を楽しんできました。

ランニング × 健康
ランニング × 旅行
ランニング × グルメ
ランニング × 登山
ランニング × 仕事
ランニング × 仲間
ランニング × 地域振興
ランニング × etc.

そもそもランニングは、私たちホモサピエンスという種が出現した約20万年前から、実はとても自然な行為でした。むしろ、長距離走行のため進化した種の最終形がヒトという説もあるくらいです。最初の走りは生き延びるため。そのうち競い合いとなり、今までは心身の健康のために、多くのランナーが自己の目標に向かって毎日汗を流しています。

ランニングには健康促進効果はもちろん、脳を活性化させるという研究結果も。さらに運動能力が向上することで、身体のセンサーが敏感になるので、クリエイションする能力に良い作用をもたらすことは間違いありません。走ることで、面白いアイディアで溢れる世の中は、きっといい未来だ、と僕は考えています。

予想外の出来事に争うことなく身を投じてみて、好奇心の赴くまま工夫を重ねて道を進み続けると、それは自分の人生にとって大切な一部に。さらには世の中とっての価値に繋がって行く、そんな妄想を『モチベーション』にしながら、これからも楽しくランニングを続けていきたいと思っています。

住田つながりトレイル ランニング大会にて

PROFILE

クリエイティブディレクター / アートディレクター

ランニングアートアプリ「RunGraph」開発者
4th駅伝部 代表

初フルマラソン大会:ホノルルマラソン2009(4h04m12s)
フルマラソン自己ベスト:古河はなももマラソン2016(3h10m13s)
100kmマラソンベスト:いわて銀河ウルトラマラソン2015(10h19m54s)
初海外ウルトラトレイル大会(110km):ウルトラピリネウ2015(28h27m06s)
住田つながりトレイル ランニング大会2019 プロデュース