MOTIVATION NOTE
デジタル

【困難を突破するシリーズ】タレントの分散化と超コンテンツ消費社会

「だれ?そのタレント?」そんな局面が個人的に増えている。ちょっと前までは、「写真をみれば分かりますよー」と後輩に促され、実際、分かった。今はGoogle画像検索をみせられても、まったく脳が反応しない。本当に知らないのだ。そのタレントは普段の私の生活へリーチしていないのである。いつから、こんなことになってしまったのだろう。恐怖感に駆られて考えてみた。

タレントはビジネスパートナー

私は広告会社で働いている。デジタルが主担当である。ニュースには詳しいほうだ。毎日欠かさず日経電子版を愛読しつつ(就職氷河期世代はそう指導された)、広告業界、デジタルマーケティング界隈、エンタメ周辺、SNS上の話題など、硬派からカジュアルまで、さまざまな情報ソースを総花的にチェックしている。ニュースに明るい人間だと社内で認識されているはずだ。

だから、「なに?そのニュース?」と狼狽することは少ないように思う(申し訳ありません、間違った自己評価かもしれません)。トップスをハイウェストにインするのは若年層のイケてるファッションであることを5年前から知っていた。では、なぜ 「だれ?そのタレント?」といった会話が発生しているのだろうか。

そういえば、タレント主語のニュースに触れなくなった。朝の情報番組で「2020年ブレイク必至の若手注目株!」といわれても、かまわず自身の髭を剃っている。むしろ剃り込みが加速する。あごのツルツル度合いのほうが優先なのである。

これはマズい。私は広告会社で働いている。あらゆる分野の情報をインプットすることで、仕事の質が高まる。このままじゃ起用するタレントの目利きができなくなるじゃないか。広告コミュニケーションにとって、タレントはプロジェクトの成否を握る重要なパートナーである。タレントあっての、広告業界なのである。

タレントの分散化 ~インフルエンサーの登場~

30代くらいまでは、普通に生活していればタレントのニュースを受信していた。受信していれば、その続きを知りたくなるから、興味の好循環である。

ところが、40代に突入し、撮り溜めたトーク番組や連ドラを観なくなり、ミュージックステーションに知らないアーティストが出演し始める。アイドルグループの卒業に対して感情が生まれなくなり、あれだけ好きだったミュージシャンを聴く機会が減った。

「あ、ついていけてないかも…」と小さな敗北感に直面しつつ、白旗を上げたくなくて、「まだダイジョーブ」と強がっていた。そして、ダメ押しが起きる。

インフルエンサーの登場である。ブロガーとツイッタラーまでは把握していたが、インスタグラマーやYouTuberの活躍で雲行きが怪しくなる。TikTokerとVTuberで黄信号が灯り、Vloggerとライバーでいよいよ私の脳の引き出しが溢れた。特に、ファンは少ないが局地的に支持されているインフルエンサーについて、自分の言葉で説明することが困難になる。彼らのフォロワーは熱狂的だから(広告的には価値がある)、肌感覚を持っておかないといけないのに。

脳の引き出しは実質的に有限なため、地上波の新人タレントの把握に手が回らない。完全に悪循環である。そして、お手上げとなり、2019年、髭を剃り始めてしまった。“タレントの分散化”に屈した瞬間である。

超コンテンツ消費社会がやってきた

こんなことを自社コラムで吐露していたら、仕事が減ってしまう(お会いしたときに叱ってください…!)。躊躇なく執筆している自身を猛省しつつ、ひとつ言い訳させて欲しい。知らないタレント(インフルエンサーを含む)には共通点がある。検索クエリーが急上昇してから1~2カ月程度なのだ(知らない彼らを発見したときにGoogleトレンドの動きを確認する習慣から得た気付き)。

SNSの登場で、あらゆるコンテンツの賞味期限が極限まで短くなった。新語・流行語大賞にノミネートしている短期沸騰型の言葉たちに使用実感が湧かなくなってから久しい。この“超コンテンツ消費社会”は今後も継続するだろう。タレントのブレイクが垂直立ち上げ時代に突入したのである。

広告だってそうだ。短尺化している。バンパー広告の話ではない。デジタルアドのターゲティング精度が高まったこともあるが、とにかく知らないキャンペーンが増えた。ひっそり始まり、気付かぬうちに終了している。仕事柄、私はキャンペーンをツイッターで能動的にチェックする日々である。ここにきて、宣伝会議など業界誌の事例記事のありがたさが身に沁みている。

髭剃り問題に立ち向かう

SNSをやってない三大女優は、綾瀬はるかさん、新垣結衣さん、石原さとみさんである。SNSで素を晒さず、圧倒的品質でコーティングされたメディア露出。このビジネスモデルで成立する最後の世代ではないだろうか。たくさんの関係者が仕事を動かしている。

一方、地上波で活躍していたタレントが人気YouTuberとなり、その逆が同じくらい発生。SHOWROOMや17Liveのように、タレント志望者が生活者側に降りて、ファンと共に成長するのが当たり前になった。当事者一人で発信できるから、金の卵がどんどん生まれていく。ライバーに限ると、配信中の動画を私たちが視聴する機会が少ないことを付け加えておく。ますます把握が困難だ。

エージェンシーにとって、タレントは大切なパートナーであり、その起用は重要な提供価値である。自己研磨を怠ってはならない。入念に髭を剃っている場合ではないのだ。

“タレントの分散化”と“超コンテンツ消費社会”によって加速する髭剃り問題。この困難を突破するには、時間を割いてアンテナを張り、タレントの言動やファンの反応を傾聴するしかないようだ。本コラムを機に、2020年、私はこの問題に立ち向かっていこうと思います(髭を剃りながら)。

PROFILE

統合コミュニケーションディレクター

1976年生まれ。ポータルサイトや出版社の広告部を経て、デジタルエージェンシーを経験した後、フロンテッジに参画。近年は、“ソーシャルドリブンな統合コミュニケーション” “あらゆる価値のデジタライゼーション” のデザイン&エグゼキューションを主要テーマに据えつつ、SNSを活用したブランデッドコンテンツの企画制作・流通拡散に強みを持つ。趣味は、ゴルフ、筋トレ、ドライサウナ、非ネット接続の据置型TVゲーム。娘2人のパパ。